Sub menu


綺麗なお姉さんは好きですか?


寝殿に連なる平家の公達の面々。
見慣れたものからそうでないものまでよりどりみどりだが、どうしてこんなに集まっているのか見当がつかない。
どことなく居心地の悪さを感じながらも歩みを進め――、そうして今度こそ足が止まった。
居並ぶ公達。上座に座る清盛。
それは見慣れたものだ。

だが、確実に見慣れないものが目の前にあった。

居並ぶ平家の面々がどことなく緊張しているのは、間違いなくそれのせいだろう。
清盛の膝に抱かれている幼い少年。
元服は済ませているようだが、どう見ても成人の儀を済ませるには目の前の少年は幼すぎた。
10歳にも満たない、せいぜい5〜6歳といったところか。
平家にも幼い少年は何人かいるが、平家棟梁の膝に座り寛げるだけの豪胆な子供は一人もいない。
となると考えたくないけれど、目の前の子供はやはり…。
ふらりと斜めに傾いた将臣の隣で、がぽつりと呟いた。

「どうしよう、こんなに沢山。お菓子足りないかも…」

いやいやそれ関係ないからと突っ込むはずの将臣は、ただいま現実逃避の真っ最中。





   ◇◆◇   ◇◆◇





「おぉ、ではないか。丁度いいところに。ささ、もっとこっちへ来んか」

こいこいと手招きをする清盛に、だがは苦笑するだけだった。
この状況で目の前の子供が誰か、なんて聞く必要はない。
子供が纏う装束は上等な絹。色は白と紫紺。
金糸が映えるそれはそれ相応の身分がなければ纏うことができない色で。
ましてや清盛の態度を見れば、その正体は一目瞭然だ。

安徳天皇。
平家とともに運命を共にした子供は、想像するよりも遥かに無邪気で幼い。
笑顔で祖父に甘えている様子はどこから見ても普通の子供と同じだ。
その様子が微笑ましくてふわりと笑えば、目の前の子供がきょとんと目を丸くした。

「おじい様。もしかしてこちらの女人がおじい様の言う『平家の比売神』なのか?」
「そのとおり。帝は賢いですな」
「なるほど。新中納言や三位中将の申す通り、確かに花のような女子だ。とてもうつくしい」
「彼女は我が平家最大の宝物にございます。もっとも帝ほど大事なものはこの世にはありませんけどな」

からからと豪快に笑う清盛の言葉に完璧に凍りついたのは将臣だ。

「みかど…」

帝と呼ばれた少年は、呆然と呟いたきり動かない将臣と隣に立つを交互に見、そして子供特有の無邪気な笑顔を浮かべた。

「御祖父様から聞いて一度お会いしてみたかったのだ。私は言仁だ。苦しゅうないぞ」
です。こちらこそ、よろしくお願いしますね」
「ところで、。その手に持っているものは何だ? 初めて見るぞ」
「これは蒸しパンと言いまして、私の国にあるお菓子なんですよ。食べてみますか?」
「いいのか?!」
「はい、どうぞ」

見たこともない食べ物だが、目の前から漂ってくる甘い香りには勝てないのだろう。
乳母がいればそのような得体の知れないものをと咎めるかもしれないが、生憎ここに乳母はいない。
持っていた箱を帝の前に差し出して好きなものを選ばせると、目を輝かせて悩んでいる姿が愛らしい。

「美味い!!」
「ふふ、よかった」
「このように美味しいもの、初めて食べたぞ! 甘葛でもないのに、どうしてこんなに甘いのだ? それに、とても柔らかい。の国にはこのような食べ物が沢山あるのか?」
「はい。他にも沢山。私が作れるものでしたら、またいくらでもお作りしますよ」
「本当か?!」
「勿論」

にこにこと笑い合う2人。
どんなに身分が高かろうと所詮は幼い子供。
手懐けるにはお菓子が有効なのはどこの国でも変わらないらしい。
尤も自身そのような目的で用意したわけではないのだけれど。
幼いながらも数奇な運命を辿った子供。
こんなことで彼が喜んでくれるなら造作もないことだ。


  • 08.07.03