枢木スザクという転入生は、色んな意味で話題に事欠かない人物だった。
まずはその育ち。
京都六家という世界的にも有数な歴史を誇る名家の生まれで、しかも現日本国総理大臣の息子。
外見は少々童顔だが、女性受けするであろう甘い顔立ちは将来有望だということを十分に窺わせ、身体能力は学園でもトップクラス。
ルルーシュを見かけて3階の窓から飛び降りた時には悲鳴が上がったものの、空中でくるりと円を描いて華麗に着地を決めた時には、目撃した生徒全員から拍手喝采を浴びたものだ。
尤も目の前にいきなり幼馴染が降ってきたルルーシュにより、そのまま生徒会室へと強制連行され正座で説教されたのだが。
成績は中の上。可もなく不可もなく。
何よりも彼が注目されているのは、彼が学園でも人気の高いルルーシュ・ランペルージの幼馴染であり、公然とルルーシュにスキンシップができる唯一の人物だということだろう。
スザクが転入初日にして、クラスメイトの目の前でルルーシュと熱い抱擁を交わした事実はその日のうちに学園中をかけ巡り、登校2日目にしてスザクは知らない者はいないほどの有名人になっていたのだ。
「ふ〜ん、ルルーシュって人気者なんだ」
そういいながら購買で買ってきたサンドイッチを頬張るのは噂の枢木スザク。
購買で一番人気の限定30個しか販売していないローストビーフサンドイッチを2つもゲットしているあたり流石の運動神経だ。
ちなみに1つはルルーシュの元にある。
勿論単なる善意ではない。
「あ、その春巻き美味しそう。1つ頂戴」
あーんと口を開けて待っている様子は無邪気に見えるけれど、ここが教室で周囲にはクラスメイトが沢山いるということをきっちりわかっている行動だろうと推測するのはシャーリー・フェネット。恋に生きる少女である。
ちなみにそんなスザクにルルーシュは仕方ないなとため息をついてその口に春巻きを押し込む。
ずるい、あたしだってそんな羨ましいことしてもらったことないのに、と軽く嫉妬してしまうのは当然だろう。
何しろこの行動、ルルーシュは無意識だがスザクは確信犯。
彼がいかにルルーシュと仲がいいのかをクラスメイト(というよりは男子生徒)に見せびらかしているのだから。
シャーリーが嫉妬するのはスザクにとっても計算外のことだ。
「あ、美味しい。ルルーシュって中華も作れたんだね。今度はそのお肉頂戴」
「誰にものを言っている。和・洋・中、ブリタニアの地方郷土料理からフレンチのフルコースまで、私に作れないものはない。ついでにこれは回鍋肉だ」
ちなみに現在の席は、ルルーシュが自分の席でシャーリーと向かい合って座っている。
普段なら生徒会室で昼食を摂ることが多いルルーシュとシャーリーだったが、本日はミレイが家庭の事情で学園を欠席。
『生徒会室のマスターキー持って帰ってきちゃったみたい、ごめんねぇ』という、絶対悪いと思っていないであろうメールのお陰で、本日生徒会室には入れないという事態になっていた。
合鍵をごっそり全部持って帰っておいてごめんねはないだろうと思った関係者は多かったが、それを言っても無駄なのは嫌というほど承知である。
学園内においてミレイは専制君主も同然なのだ。
唯一の救いは横暴ではないことか。いや、そこそこ横暴である。
でも誰も止めることができない。
創設者の孫だからという理由ではない、文句を言えば言うだけミレイは喜ぶのだ。
彼女の考えることは理解できない。
ミレイが社会人としてやっていけるかどうか非常に心配である。
そんなわけでルルーシュとシャーリーは本日教室で昼食を摂っている。
飲み物を用意してさて楽しい昼食タイムをと思った矢先に便乗してきたのが枢木スザク。
曰く、「転入したばかりで親しい人がいないんだ。一緒に食べていいかな」とのことだが、教室のあちこちにも扉の外にもスザクと昼食をご一緒したい女子生徒は山のようにいる。
当然のようにシャーリーはその女子生徒たちの存在に気づいていたが、恋愛方面に関しては自慢の頭脳も見事に機能しないルルーシュは気づかない。
そういうことならと自分の隣に座ることを許可したルルーシュに、教室内の空気が揺れた。
悔しそうに歯噛みする男子生徒、羨ましそうに見やる女子生徒、涙ぐみながら教室を立ち去る他教室の女子生徒など、教室内はちょっと嫌な空気になりかけたが、相変わらずルルーシュは気づいていない。
彼女の鈍感さはちょっと罪なのではないかとシャーリーは思う。
そんなルルーシュは相も変わらずスザクの口におかずをぽいぽいと放り込んでいる。
最早弁当の半分はスザクが食べてしまっていると言っても過言ではない。
食が細いルルーシュでもこれでは足りないだろうと思うが、そこはスザクが手渡したサンドイッチがあるから大丈夫か。
確信犯か枢木スザク。この男、案外あなどれない。
「あ、これも美味しい。料理上手な奥さんだなんて、僕って幸せものだなぁ」
「は?」
本日何度目になるかわからないスザクの爆弾投下に、教室の空気が凍った。
流石にルルーシュも凍った。
「奥さんって…誰が?」
「ルルーシュが」
「…誰の?」
「勿論、僕の」
自分を指差してにっこり笑うその顔は可愛い。
だがシャーリーは悟った。
スザクの行動はすべて計算づくのことだ。
自分の童顔も、無邪気な態度も、子犬のような人懐こさも。
うわぁ性質悪いと心の中で呟いた。
さすがに言葉にする勇気はない。
そんなシャーリーの前でルルーシュはこめかみに手を当てて小さくため息を一つ。
「あのな、スザク。私はお前と結婚の約束をした覚えはないぞ」
「うん。でも僕、初めて会った時からルルーシュをお嫁さんにするって決めてたから」
「…私の意見は?」
「あはは。あまりないかな」
やばい、こいつ結構性質悪い。
クラスメイトの意見が奇しくも一致した。
断る、駄目、という幼馴染の言い合いに、ルルーシュ独占反対!というシャーリーの声が加わり教室がカオス状態で予鈴が鳴り響いたがそれを聞いた者は碌におらず、結果として騒然としたまま午後の授業のために教室にやってきたのは現国の教師でもある黎星刻。
騒動の原因を聞きだした星刻の個人的感情を含ませた怒声が響くまで、あと五秒。
- 10.08.09