「ちゃんやんか」
「あ、白石さん」
耳に馴染んだ関西弁だけど、馴染んだ声ではない人に呼ばれ振り向いた先にいたのは、以前困っている時を助けてくれた白石さんでした。
何でここにという言葉は必要ありません。
だってここ、大阪の某駅前ですから。
私こと跡部はつい先日プロの演奏家としてデビューしたのですが、何と言っても中学1年生です。
中学生はやはり学校が最優先なわけでありまして、基本的に平日は学校が優先です。
えぇ、あくまでも基本的に、ということなので勿論例外はあります。結構あります。
それこそ出席日数不足の恐怖に怯える程には。
それなのに東京なら学校終わってからでもコンサートに参加できるわねとかカレン先生に素敵に問答無用で言われてしまったせいで、週末や連休は主に地方で公演なのです。
お陰で週末は関西に飛んだり九州に飛んだり北海道に飛んだりしています。
今週は大阪、再来週は神戸。そして来月は札幌です。
もう、あれです。
カレン先生は鬼じゃないかと思ってもいいですよね。
しかも長年一緒にいるせいか私の体力や体調もしっかり把握済でして、倒れる寸前のスケジュールを組んで来てくれます。
先生とは一度じっくり話し合う機会が必要だと常々思っていますが、スケジュールに関しては景ちゃんですら口を挟めないというのに私に勝てるわけがありません(本気で泣いてもいいですか?)。
だって「あなたプロでしょう」と言われて反論できる人がいたら連れてきてもらいたいですよ。
そんなわけで明日のコンサートに備えて前日入りした駅で、まさかの白石蔵之介さんとばったり再会です。
白石さんとは中学入学直前に絡まれているところを助けてもらって以来の仲なのですが、東京と大阪という距離はどこに行ったんだというくらいに頻繁に遭遇します。
最初の再会は全国大会。
当然の如く景ちゃん…もとい、氷帝の応援に行った私とばったり再会したのです。
あの時の景ちゃんは…うん、まぁ、アレですよ。
普段より3割増くらいで酷かったです(何って壊れ具合がです)。
その後も何度か行われるコンサートの為に大阪に行くと、何故だか必ずと言っていいほど駅や街やお店でばったり遭遇するのです。
まさかの遭遇率90%なんですよ。
しかも景ちゃんが同行しない時はほぼ100%の確率で遭遇します。
勿論私のスケジュールを白石さんが知っているわけないので本当に偶然なのが更にびっくり。
大阪って広いと思ったけど、案外狭いのかなぁ。
いくら人見知りな私でも、そこまで頻繁に会うのですから打ち解けます。
そんなわけで、今ではすっかり遠距離友人です。
「何や、またコンサートかいな。教えてくれたら美味い店連れてったのに」
イケメンスマイルでそんなリップサービス言われて嬉しくない女性がいるでしょうか。
何だかまた背が伸びたみたいで、本当にびっくりするほど正統派イケメンです。目の保養。
氷帝にも顔の良い人はたくさんいるけど、何故だか皆さん一癖もふた癖もありそうな人ばかりなので(萩君を除く)、裏のなさそうな笑顔はとっても新鮮です。
しかも何といいますか「頼ってもいいよ」オーラがびしばし出ているので、妹属性の私としては懐いて当然というものです。
「でも、白石さんも部活が忙しいでしょう。私に突き合わせてしまうのも申し訳ないじゃないですか」
「そんなこと気にせんでもええのに。ま、何故かこうして毎回ばったり会うっちゅうのも運命的な感じがしてええけどな」
「ふふ」
景ちゃんが聞いたら激怒すること間違いなしの台詞ですね。
残念ながら今日は景ちゃんはいないのです。
何故なら今夜は榊監督の御実家で行われるパーティーに跡部家名代として参加する予定だったからです(中学生の行く場所とは到底思えないけど、これが跡部クオリティです)。
更には明日はテニス部の練習試合があるので、流石の景ちゃんも同行できなかったんですね。
ちなみにカレン先生はいつもの如く打ち合わせです。
人見知りの私を当然のように駅に放置していくカレン先生の所業は誰に訴えたら良いのでしょうかねぇ。
あ、皆さん誤解しているかもしれませんが、カレン先生は決して意地悪ではありませんよ。
カレン先生の9割は優しさで出来ているんじゃないかって思うほど素敵な女性です。
だって私のお母さんの親友なのですから、そんな酷い人のわけないんです。
ただ、音楽家のスイッチが入ると容赦がなくなるくらいで。
だから今まで結構な目に遭わされてもカレン先生のことは変わらずに大好きなんですよね。
飴とムチの使い方が絶妙なんだと思います。
そして今回も持たされたお小遣い。
毎回言っているけれど、中学生が夕食を食べるだけで10万は必要ないんですってば。
交通費を含めても諭吉さんが1人で十分です。いざとなればカードだってあるんだから(えぇ、家族カードです。勿論色は黒です。使ったことはありません)。
「ちゃん? 俺の話、聞いてる?」
「あぁ、ごめんなさい。ちょっと考え事してました」
議題は子供のお小遣いについてですと言えば「何やそれ」と笑ってくれました。
いや、でも本当に今時の中学生のお小遣い相場が気になるんです。
中身は思いっきり小市民なもので。
そんな話をしていたらまたもやばったり会った四天宝寺中テニス部の皆さんと一緒にお好み焼きを食べに行くことになりました。
とても美味しかったです。流石本場。
- 12.02.22