Sub menu


嬉し恥ずかしソロデビュー


こんにちは。跡部です。
現在心臓が口から飛び出しそうです。誰か助けてください。





事の発端はカレン先生の一言(いつものことです。えぇ、そりゃもう毎回のことですけどね)。

ちゃんの日本ソロデビューが決定したから」

とか、いきなり言われたらびっくりしないはずがないですよね。
しかもそれがレッスン終わってほっと一息とお茶していた時なんだから驚くのも当然です。
毎回思うのですが、先生は私がいくつだと思っているのでしょうか。
若干12歳の子供ですよ。えぇ。

中身は+18歳だけど、それはこの際置いといて。

「最近調子がいいみたいだから」なんて理由でソロデビュー決めてしまうのはどうかと思います。
でもまあ、いくら私が反対したところで相手はカレン先生です。
気が付いたらお母さんを巻き込んで華々しいデビュー公演が決定してしまいました。
海外どころか日本でも有名な交響楽団をバックにソロ演奏なんて、一体どんな罰ゲームですか(ガタブル)。
私はもっとひっそりと趣味のようにヴァイオリンを楽しみたいのに。
あれよあれよという間に公演日は迫ります。
何せ告げられたのが1週間前。

あれ? 私主役だよね?

曲を選んだり衣装を選んだりしている間にあっという間に当日になっちゃうんです(だって期間は1週間)。
何かもうこれは先生のいじめじゃないかと思うのは私の被害妄想でしょうか。

「ありえない…絶対にありえない。何このスケジュール…」

家のグランドピアノの下に蹲ってガタブルしている私に、景ちゃんだけが同情してくれました。
でも、「なら大丈夫!」とか良い笑顔で送り出してくれちゃったのも景ちゃんなんですけどね。
そんなわけで現在私は某ホールの控室にいます。
もう戸惑いも困惑も恐怖も何だか全部混ざり合って、正直私の脳内はとんでもなくカオスな状態です。
とりあえずギリギリの根性で笑顔だけは貼りつけていますけどね。
ギリギリスケジュールもソロデビューも2度目ともなれば人間耐性がつくものだなぁとしみじみ思います。

はい、2度目です。
1度目はカレン先生の母国であり、一応私も滞在していたロンドンでソロデビューしましたから。
あの時は正直何を弾いたか覚えていないくらい緊張したので、それに比べたらまだマシな方です。
とりあえず心臓は口から飛び出そうですが(大事なことなので2回言います)。

、大丈夫?」
「大丈夫じゃない」

景ちゃんの気遣いにも即答です。
またまたぁとか笑わないでください。後で覚えてろよ。

なら大丈夫。俺が認めたヴァイオリニストなんだから」
「景ちゃん…」

頭1つ分大きい(最近成長期らしくてぐんぐん伸びてるんです)景ちゃんを仰ぎ見れば、そこにはまるで菩薩のように慈愛に満ちた麗しい笑顔が。
いつものように頭を撫でようとしてくれるのですが、セットが崩れるといけないので軽く触れるだけの手がすっと頬に伸びてきて。

「失敗したっていいじゃないか。は今まで完璧すぎたんだから、多少失敗した方が愛嬌があって余計にファンが増えるよ」
「失敗しても大丈夫…?」
「あぁ。の演奏はちょっとの失敗なんて気にならないくらい魅力的だ」
「…本当?」
「俺がに嘘をついたことがあるか?」
「ない」

緊張をほぐすためのリップサービスなんだってことは重々承知なんですけどね。
景ちゃんが大丈夫って言えば本当に大丈夫な気がしてくるから不思議です。
実際ほんのちょっとの間違い程度ならお客さんは許してくれるかもしれませんが、カレン先生が絶対に許してくれないとは思うのですが、そこは考えちゃ駄目(怖いから)。

景ちゃんにぎゅぅっと抱きついてエネルギーをチャージ。
景ちゃんの自信を少しでも分けてもらえますようにと願いを込めたハグは、コンクールで毎回行われるおまじないのようなものなのです。
あらあら仲良いのねとかカレン先生もお母さんも笑っているけど、これがないと安心できないんだから仕方ありません。
実際景ちゃんのハグを貰った大会は全部好成績なんですから。

開演を告げるブザーが鳴る。
インストゥルメンタルが流れて曲が始まれば、舞台に出て演奏するだけ。
景ちゃんもそこまではついてこれないから、後は私が頑張らなければいけないんです。
だから…。

「行ってきます」

景ちゃんから離れて、向かう先は光溢れる舞台。



跡部、本日、日本ソロデビューです。


  • 11.12.13