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最大の敵は、兄


『ちょっと貴女、跡部様の妹だからって生意気なのよ』

そんな言葉を想像していた私ですが、あれれ、ちょっと待ってと思う事態に現在遭遇しています。

連れ込まれたのは見知らぬ部屋。
そして部屋には更に女子生徒数人の姿。
周囲をぐるりと囲まれるこの状況は、誰がどう見てもリンチのような感じなのですが、それにしては表情が穏やかです。
というか素晴らしい笑顔です。ある意味もっと怖い。

「じゃあ、ちょっとごめんなさいね」
「大丈夫。変なことしないから」
「え? …あの?」
「あらぁ、やっぱり白いと思ってたけど、本当にシミ一つないのねぇ。綺麗」
「あの…ちょっと…」
「細いのにスタイル良いのは跡部家の遺伝なのかしら。うわー、羨ましいウエストの細さ。何センチ?」
「んと、55センチ。あらー、サイズ直さなきゃ」
「55?! ということはバストは」
「えぇっ?! ちょ、ちょっと待ってください!」
「ごめんねー、必要なことだからちょっとだけ大人しくしててねー」


現在見事に剥かれてます。景ちゃん助けて(超切実)。

何ですか、何でこんな事態になってるんですか?!
見知らぬお姉さんに囲まれて服を脱がされてるって、これ、何のいじめですか。
カレン先生にすらこんなことされたことないですよ(似たようなことはあったけど)。
暴れたいのに、既にブラウスまで脱がされてるもんだからこのまま逃げたら学校で謂れのない噂の的にされること間違いなしです。

だってどうみても 強 姦 未 遂 。

わたわたとパニックになる私をよそに(むしろ都合がいいと言わんばかりに)、お姉さま方はメジャーとノート片手に何やら書き込んでます。
私のスリーサイズ知ってどうしようと言うんですか。

「中1でこのスタイルって羨ましすぎるんだけど、サイズ直しが必要だよね」
「でもフリーサイズで作ってあるからきつくて着れないことはないと思うよ。ウエストは少し絞らないとだぶついちゃうかもだけどね」
「足長ー、形キレー。これはもっと晒すべきではないかと思うけど、どうよ?」
「いやいや、流石に跡部様がキレるでしょう。それは」
「えー、惚れ直すと思うけどな」
「「「それは同感」」」

すみません。その前に私がキレそうなんですが、いい加減説明してもらえませんかね。

そうしてお姉さま方の着せ替え人形になることしばし、ようやく事態を聞きつけてやってきた景ちゃんは私を取り囲むように土下座しているお姉さま方の姿を見て目を丸くしたけど、事情を説明してもらいたいのはこっちも同じだからね。




というか景ちゃん来るの遅いよ(怒)。







   ◇◆◇   ◇◆◇







「つまり、明後日の発表会でにヒロイン役をやってもらいたいと」
「だって、予定していた子が肺炎で入院しちゃったんだもん」



だからと言っていきなり服を脱がすのはどうかと思います。



現在、私と景ちゃんは椅子に座り、お姉さま方は床に正座という、何とも異様な状況でございます。

ちなみに私の恰好は、イギリス文学でも有名な『ロミオとジュリエット』のジュリエットの恰好です。
何かもう、あれと思う間もなく剥かれてしまいまして、その後さくっと着せ替えさせられました。
あの手際の良さはびっくりです。
発表会のドレスを作るプランナーさんでもここまで手早くなかったです。手芸部女子、恐るべし。

どうやら彼女達が言うには、年に一度の演劇大会が明後日開催されるらしいのですが、ジュリエットの役だった子が昨日の夜肺炎で緊急入院してしまったそうです。
数日前から熱っぽいなとは思っていたそうですが、元から発熱しやすい体質だったらしく軽く見ていたら、肺炎になっちゃったそうです。
現在39度ぶっちぎりの高熱で絶対安静ということで、焦ったのは他の部員達。
優勝目指して頑張っていたものだから今更辞退することはできない。
とりあえず代役を探そうということで、どこをどうなったのか私に白羽の矢が立ったようです。

演劇部内から選ぶという選択はなかったのでしょうか。

「…で、どうしてなんだ?」
「跡部さん以外にヒロインに相応しい人がいなかったから」
「それは認めてやろう。だが通常ならば代役は部員の中から選出するべきじゃないのか」
「それは駄目。だって今回は英語劇だから。流暢なクイーンズイングリッシュを話せる人はいないの」
「成程。確かには10年英国で暮らしていたから英語は完璧だ。お前らの着眼点は確かに正しい。だがそこまでする義理がにあるのか。俺の記憶ではは演劇部とは親しくないはずだが」

なぁ、と言われてコクコクと頷く私。
親しくないどころか初対面です。

「お言葉ですけど、跡部様。芸術家が美しいものを見つけるのに理由が必要でしょうか」
「…何」

声を出したのは、どうやら手芸部の部長さん。
景ちゃんの目がすぅ、と細くなります。
あ、なんかこれやばいかも。

「私はこれでも芸術家の端くれです。美しいものをより美しくをモットーにこれからも邁進していくつもりです。その私の目の前に最高の芸術品とも呼べるさんがいたら、着飾らせてみたいと思うのも当然でしょう。そして綺麗なものをより綺麗にして世間に見せつけたいと思うのも当然だと思います」
「その通りだ」
「でしょう?! この学園で一番綺麗で可愛くて美しいのは跡部様の妹であるさん以外いないじゃないですか。今回の大会は絶対に優勝したいんです! そのために手芸部は演劇部を全面的にバックアップしてきたんです! ヒロインの代役なんて大変なこと、この学園でさん以外にできるわけないじゃないですか!」
「それもそうだ」
「け…景ちゃん…っ!!」


やっぱり出た、景ちゃんの兄馬鹿。

景ちゃんは私に関する時だけ常の明晰な頭脳が明後日の方向に動いてしまうのは、最早学校中の常識でしたね。
見事に景ちゃんのポイントをつく説得方法(これを説得と呼んでいいかは判断しかねますが)。
案の定上機嫌になった景ちゃんと、してやったりな表情の演劇部部長と手芸部部長。
景ちゃんの説得に私が弱いということも、このぶんだと理解されてるんでしょうね。

「私は美しく着飾ったさんを見たい! これでもかって周囲に見せつけたい! それはいけないことですか」
「いや、お前は正しい。よしわかった、特別に許可しよう」



…泣いてもいいですか。




ちなみに、「だからと言って見知らぬ男をの相手役にさせるわけにはいかない」とか言い出した景ちゃんがロミオをやることになり、見事なロミオを演じきった景ちゃんのお陰でぶっちぎりの高得点で優勝したことをここに記しておきたいと思います。



もう、もう絶対にやらないんだから!!


  • 11.07.11