皆さん、こんにちは。跡部です。
家族に振り回されることも慣れ、カレン先生にいきなり公演に引っ張り出されることにも慣れ、移動距離100kmなんて珍しくないよねという日々を送っている今日この頃ですが、そんなこんなでもうすぐ中学生になります。
明後日からようやく氷帝学園中等部の制服が着れるのでちょっと浮かれてます。
初等部の制服も可愛いには可愛いのですが、やはりちょっとお子様仕様というか、まぁ実際お子様なのですが。
中身が成人している身としては少々気恥ずかしいものがありましたので、中学生になって若干ほっとしています。
うん、まぁそれでも中学生なんですけどね(遠い目)。
早く大人になりたいものです。
ところで皆さん、1つ質問しても良いでしょうか。
ここは一体どこなんでしょう(カレン先生に置き去りにされました。泣きたい)。
今から遡ること数時間前。
中等部の見学も兼ねて景ちゃんの練習風景でも見ようかなと支度して食堂(家に食堂があるんですよ。何たるブルジョワ)にやってきた私の目に飛び込んできたのは、お母さんと仲良くティータイムを楽しんでいるカレン先生の姿。
相変わらず2人共綺麗です。
でも、あれ、なんでカレン先生がいるんだろうと思ったら、にっこり笑顔のカレン先生にがしっと腕を掴まれて車の中にポイッ。
そのまま高速を走ること数時間。
西方向に走ってるなぁとは気づきましたが、ようやく車が止まったのがまさかの大阪(ありえない)。
私ってば手ぶらなのにと思っていたら、いつの間にかMyヴァイオリンが隣に(お母さんの仕業に違いありません)。
何か嫌な予感がするのは気のせいじゃなかったようで、
「今日ね、ここで公演するの。共演者の飛行機が間に合わなくて困ってたけど、ちゃんがいてくれて助かったわ」
とか言われたらビンゴですよね。
そんなわけで、現在私こと跡部は大阪にいます。
何が悲しくて世界的ヴァイオリニスト達が集う公演に、12歳の子供が飛び入り参加しなくちゃいけないのか(本気で泣きたい)。
茫然としている私に気付かないカレン先生は、現在打ち合わせと私の衣装の準備でスタッフと一緒に事務局へ。
だったら私も連れていくなり、ホテルに置いていくなりしてもらいたかったです。
「ちゃんは少し散歩でもしてきなさいな。大阪は美味しいものが多くて楽しいわよ」
とか言われておこずかい持たされて(10万入ってました。ありえない)、ポイッと外に放り出されました。
相変わらず酷い扱いなのですが、家族ぐるみ(景ちゃん除く)の仕業なので何を言っても無駄だということは、長い年月で嫌というほど悟りました。
…でもちょっと泣きたいとか思ってもいいでしょうか。
ちなみに現在私がいるのは知らないお店の前。
散歩してこいと言われても知らない土地を1人でうろうろできるほど神経太くなく(前世だったら別ですが)、とりあえず近くをふらふらウィンドウショッピングしていたのですが、声をかけてくる人の多さにびっくりして逃げ回ってたらこんなところに。
ようやく逃げたと思ったら、今度は知らないお兄さんグループ(高校生くらい3人)に捕まってしまいました。
家族(主に景ちゃん)から過保護に育てられたせいで人見知りなんですってば。誰か助けて。
「ですから…あの、迎えが来るので…」
とりあえず定番の「連れがいるんです」作戦を試みたのですが。
「そんなこと言ってさっきからずっと1人やん」
「せや。それなら少しの時間くらい相手してくれてもええんちゃう」
どうやら1人でふらふらしているところをずっと見られていたようです。
「だから、ほら。俺らと遊ぼうや」
「痛っ」
ぎゃー、触らないでー!(軽くパニック)
氷帝学園てやっぱり良家の子息子女が集まる学校なので、こういうガラの悪い人って見たことがないんです。
前の人生でも無縁の人達だったから、はっきり言って怖い。
普通の人かもしれないけど、知らない人は苦手なんです。
どうしよう、このままだと何するかわかりません(私が)。
とりあえず腕を掴んでいる目の前の人の鳩尾に拳をめりこませてもいいかな (かなり限界)。
「あのっ」
「自分ら、人の連れに何してくれてんねん」
決意を固めた私の声に被ったのは聞いたことのない声。
それと同時に私を掴んでいた腕がするりと外れ、気が付いたら視界には見知らぬ人の背中。
視線を上げると景ちゃんと同じくらいの年齢の少年が、自分よりも少し大きなお兄さん相手に睨んでます。
まったく知らない人だけど庇ってくれるのがわかって不覚にも涙が出てきました。
思わず背中に貼り付いてしまえば、相手も勘違いしてくれたのか大人しく去っていってくれました。
それでも背中から離れないでいたら、今度は少年の連れらしき人達に囲まれました。
びっくりしたけど、私と同じ年代なので前よりは怖くないです。
でも背中から離れないけど。
「大丈夫か? 自分みたいなお嬢さんがこないなとこ1人で歩いてたら危険やで」
「あ…ありがとうございます」
「ひゃー、ほんまにお人形さんみたいな別嬪さんやなぁ。俺、こないに可愛い子見たん初めてや」
「こら、謙也。そないにじろじろ見たら失礼やろ」
「蔵りんの背中に隠れてると、何だか兄妹みたいね。あ、それとも恋人同士かしら。蔵りんも顔立ち整ってるからお似合いだわ」
「え? えと、あの…」
「やめろ言うてるやろが。何や世間知らずのお嬢さんぽいし、大方迷子にでもなったんやろ。どこから来たんや?」
「えと、私もよく分からないんですが、コンサート会場みたいなとこから…」
「あー、俺知ってるわ。西側にある大きなとこやろ。今日何や有名な音楽家が来るとかでおかんが騒いでたわ」
「お嬢ちゃん、コンサート聴きにきたん? それにして手に持ってるのヴァイオリンやんなぁ」
「あ、私、代理で参加することになったとかで連れてこられて…」
「マジか?! その年でもうプロなんか?!」
「いえ、プロとかじゃないです。たまたまです。偶然です」
むしろ被害者です。
過去に何度か巻き込まれて公演に参加させられたことあるけど、まだまだプロなんて呼べるほど大したもんじゃないですから。
ぶんぶんと首を振って否定したらくらりと眩暈がして、蔵りんと呼ばれた少年が苦笑しながら支えてくれました。
その後他愛のない話をしながら会場まで送ってもらって本当に感謝です。
そういえば名前も聞かなかったとか思いながら別れたのですが、その数か月後に景ちゃんの応援に行ったテニスの全国大会で彼らとばったり再会したのですが、その時に景ちゃんと蔵りん改め白石蔵之介君の間でひと悶着あったのは皆さん予想の範囲だと思います。
- 11.04.12