皆様、こんにちは。跡部、生まれて初めて家族と離れています。
あ、訂正します。
生まれて初めて兄と離れています。
そういえば生まれてからこっち、景ちゃんと24時間以上離れたことがなかったんですね。
飛行機の中で何か足りないなと思っていたら、どうやら景ちゃん不足が原因でした。
最早これは刷り込みのレベルではないかと思います。
治すつもりはありませんが。
そんなわけなので演奏も若干気が抜けてしまっていたようで、先生にはばっちりばれてしまい予選後にお説教されてしまいましが、無事本選出場も果たし、何と、審査員特別賞なるものを頂いてしまいました。
史上最年少らしいです。跡部家DNA、恐るべし。
うふふ、燦然と輝くトロフィーと盾。
前世の私は運動ならそこそこ出来たけど、芸術関係はさっぱりでしたからね。
嬉しくないといったら嘘になります。
何だか評価が凄く高かったらしく、先生のお友達(?)のフランス人のヴァイオリニストの方に熱烈なハグと賞賛を貰いましたが、私フランス語は分からないのでちんぷんかんぷんでした。
後になって先生に通訳してもらったところ、『彼女は天才だ。100年に1人の逸材だ。将来が非常に楽しみなヴァイオリニストが誕生した』とか言ってたらしいです。
あははははー、外国人のリップサービスってもの凄い。
でも、一応は入賞です。快挙です。やりました自分。
というわけで早速景ちゃんに連絡をしたのですが。
『……………………』
先程から電話の向こうが無言です。どうしましょう。
「………あの、景ちゃん?」
『……が入賞したことは嬉しい。それは間違いないんだよ』
じゃあ何でそんなに声が低いんでしょうか?
『その場に僕がいられなかったのが悔しい』
「景ちゃ…」
『のヴァイオリンが凄いのは僕が一番良く知ってるんだ。世界に認められても当然なんだ。ただ、その晴れがましい日に傍にいられなかったのが嫌なんだ』
………景ちゃんっ!!!
もうっ、もうっ、何でこんなに可愛いこと言ってくれるんですかこの子は。
目の前にいたら抱きついてますよ絶対。
「わたしも景ちゃんに聞いてもらいたかったよ。でも景ちゃん学校もテニススクールもあったし、だいいちお父さんがだめって言ってたから無理だったでしょ。だからね、景ちゃんに届きますようにって思いながら演奏したの。わたしのヴァイオリンが認められたのは、景ちゃんのおかげなんだよ?」
『…!』
本当だったらこんな恥ずかしいこと言えないんですけどね。
離れているせいかも知れません。
遠距離恋愛する人の寂しさがちょっとだけわかったような気がします。
「明日の午後の便で帰るから、帰ったら一番に景ちゃんに会いたい」
『うん。僕も早くに会いたい。カナダまで迎えに行ければいいのに』
「さすがにそれは無理だと思うから、ロンドンの空港に来てくれるとうれしいな」
『…ちっ…、わかった』
あれ? 今舌打ちした?
あははは、まさかね。
俺様跡部様ならともかく、わたしの景ちゃんがそんなことするはずないじゃないよね(恐るべし刷り込み)。
『』
「なに、景ちゃん?」
『おめでとう』
「ありがとう」
『早く帰っておいで。…大好きだよ』
「…うん、わたしも景ちゃんだいすき」
電話を切った5分後。
恋人同士のような会話を交わしていたのに気付いた私がベッドの上で悶絶したのは内緒です。
- 10.10.20